女ウルトラマン先生 第5話 ◇謎の転校生◇



その晩、正体不明の物体が地球に落下してきた。星涼子は、UGMのレーダーでそれを確認した。
「キャップ、物体は浅田山(あさだやま)火口に落ちていったみたいです。隕石でしょうか・・・。」
「浅田山といえば、活火山だな・・・。」
そしてその物体は、浅田山の火口に突入していったため、燃え尽きてしまっただろうと判断された。
だがそれは、燃え尽きてはいなかった。浅田山火口内部に入り込み、誰にも知られる事無くある時を待っていた。

上野博士、通称ハカセ。秀才ではあるが、チビでメガネでべちゃむくれ。とても女の子にモテるタイプではない。
そのハカセの下駄箱に、ラブレターが入っていた。
『博士クン、青葉公園へ来ていただけますか。    あなたの事がとても好きなMより』
イヤらしい笑みを浮かべつつ、フラフラと去っていくハカセ。そんな彼をこっそりと眺めて嘲笑ったのは、久野マリと、彼女の取り巻き連中だった。
「キャハハハ!見た?あの嬉しそうな顔!」
「でも、ひっかかるかしら?あの真面目なハカセが?」
「ひっかかるわよ。アレだって男だもん。ねえ、賭けしない?来る方にアイスクリーム!」

マリを中心とした四人組みは、モンスターのお面を用意して公園に集合した。純情少年ハカセを驚かそうという魂胆だ。
しばらくするとハカセは、ピッチリ横ワケに蝶ネクタイといういでたちで、鼻歌交じりで現われた。
「ププッ!何あのカッコウ。気取っちゃってぇ。キャハハハハ。」
茂みに潜み、ハカセの前に飛び出すタイミングを伺っていた四人組。するとハカセの前に、1人の美少女が現われた。
「ちょっとスイマセンけど・・・。」
あまりの美少女ぶりにメガネを外して布で拭き、改めて少女を見直すハカセ。
自分ごときべちゃむくれに話し掛けてくるなんて思えないほどの美少女であった。
「私、この町はじめてなの・・・。案内してくださらない?」
「ハ、ハイ・・・・。」
「わあ、良かった。私、ミリーって言うの。よろしく。」
「え?ミリーさん?M・・・ミリー・・・うーん・・・・。こ、これは夢でありまするか?・・・・イテテ!」
ベタにほっぺたをつねるハカセ。痛い、夢ではない。
「わかりました!行きましょう!僕、上野ヒロシです!」
腕を差し出すと、ミリーは無邪気な笑顔でハカセと腕を組む。意気揚揚と去っていくデコボコカップル。
桜ヶ岡の街をデートして廻った。後をつける四人組。
「あの、ミリーさんはどちらの学校に通っているでありまするか?」
「え?ガッコウ?」
「うーん、もしかして外国から来てて、日本語がわからないのかな?学校、スクールはウェアアーユー?」
「????」
「いや、なんでもありません。あはははははは。」
デレデレするハカセを見て、イライラしはじめるマリ。
「なあにアレ!アッタマ来ちゃう!みんな、帰るわよ!」
取り巻きを引き連れて去っていくマリ。ハカセは、ミリーと夢のようなひとときを過ごした。





翌朝。朝のHRのためにやってきた星涼子の傍らに、転校生の姿があった。新たな級友を紹介する涼子。
「ハーイ!今日からみんなとお友達になる、転校生を紹介しちゃいます!青山ミリーさんです。拍手!」
その姿にハッとするハカセ、そしてマリ達。まぎれもなく、昨日ハカセの前に現れた美しい少女であった。
ちょこんとお辞儀するミリー。そしてハカセに小さく手を振ると、ハカセはしまりの無い笑顔でそれに応える。
「彼女はしばらくオランダに行ってて、日本の事はよく知らないらしいの。みんなで教えてあげてね。」
「青山ミリーです。日本には1人で来ました。どうぞ、よろしくお願いします。」

放課後。1人下校途中のミリーを、マリと取り巻きが囲った。
「ちょっとアンタ来て!」
ミリーの腕を引っ張るマリ達。それを見かけたハカセが後を追いかける。マリ達に囲まれるミリー。
「あんた私達のゲームの邪魔する気!?」
マリ達にからまれるミリーを助けようと、ハカセは駆け寄っていく。
「き、君達!ミリーに何をするんだ!」
「何よハカセ!あなたには関係ないでしょ!」
「メダカは何をしたってメダカさ。金魚にはなれはしない。とかくメダカは群れたがる。悲しい習性さ。さあ、行こう金魚さん。」
力強く言い放つハカセは、ミリーと一緒に去っていった。2人を睨みつけるマリ達。
「何よ、ハカセのバカ!チビ!べちゃむくれ!」

夜半。UGMのレーダーを見つめていた涼子は、微量の放射能反応を確認する。まるで生命の鼓動の如く、強弱を繰り返す放射能反応が
浅田山から検出されている。
「キャップ、これは・・・。」
「ウム・・・スカイハイヤーのタジマ、聞こえるか?浅田山に飛び、周囲を調査してみるんだ。」
「了解!」

・・・そこは、見たこともないような機器の立ち並ぶ不思議な空間。不思議な衣装をまとった少女が、コンピュータらしきものと対話している。
コンピュータの太い声が、少女に話し掛けた。
「現在ゴラの状態はどうなっている?」
「・・・ゴラに異常はありません。浅田山の火口で、卵がかえるのを、待っています・・・。」
「ゴラの放射能は徐々に強くなる。UGMの奴等に感づかれる恐れがある。浅田山へ向かい、何食わぬ顔で放射能抑制装置を火口に投げ入れろ。」
「はい・・・。」
「お前はそのために、人間界に潜伏しているのだ。くれぐれも、怪しまれるなよ・・・。」

浅田山周辺を旋回するスカイハイヤー。だが、怪しげな物体を視認する事は出来なかった。タジマは異常なしと基地に連絡し、帰還した。

翌日の土曜日。ハカセのビッチリとしたおめかしに、母親は驚く。
「ちょっと博士!塾へ行くのになんでそんなオシャレすんの!?」
「いいじゃないでありまするか、お母様。こうして身を引き締めた方が勉学にいそしめるモノというものでありまする。」
「そう。ともあれ、今度のテストでは絶対学年トップを取るのよ。あんたは勉強以外、なんにも出来ないべちゃむくれなんだから。」
「わ、わかっているでありますよお母様。じゃ、行ってくるであります!」
ダっと駆け出していくハカセ。行く先は、ミリーの待っている駅であった。
「ミリー!」
「ハーイ、博士くん!お母さん、許してくれたの?」
「う、うん、まあね。それより、どこへ行くでありまするか?」
「浅田山なんてどうかしら?」
その様子を見ていたマリ達は、すぐさまハカセの家へ向かった。
「あ、おばさん!博君がね・・・。」






博の母親は、桜ヶ岡中学に駆け込む。校長、教頭、そして涼子を前にがなりたてた。
「えええ!あの秀才の博士くんがですか!?」
「あの子ったら・・・。塾へ行くってウソをついて、女の子と浅田山へ行くなんて!」
「お、お母様のお気持ちはようくわかりますザマス!ウソをついて、未成年の2人が遠出をするなんて、全くもってのホカであるザマス!」
「んあ〜〜〜。そうでげすなあ・・・。」
「とにかく、一度その青山ミリーとかいう女の子に会わせて下さい。」
興奮気味のハカセの母親に対し、ゆっくりとした口調で返す涼子。
「・・・それはちょっと、どうでしょうか・・・。」
「星先生!じゃあ先生は、その女の子のああいう行動をお認めになるというの事ですね?」
「ええ。認めてあげたいと思います。」
「ンマア星先生!そんなの破廉恥ザマス!」
「だって博士君、勉強、勉強でいつも大変そうな顔してるんです。年頃になれば、女の子に興味を持つし、親にだって言えない秘密を持つと思うんです。
 可愛いい女の子とデートしたいっていうのは、普通の男の子だったら当然思うことなんじゃないでしょうか。博士君はミリーちゃんと出会って、
 普通の少年らしい心を持ったんです。2人の関係をムリヤリ摘み取ろうなんて、勝手すぎるんじゃないでしょうか?」
「ですが先生、私は中学生には中学生らしく、勉強にいそしんでもらってですね・・・。」
「まあまあ、いいじゃありませんか。親や周りの人から、ああしなさい、こうしなさい、それらしく振舞いなさい!ってギュウギュウに押付けられると、
 パアっとハメを外して、どこか遠くへ行きたいって思いたくなるモノなんですよ。」
「なんザマスの星先生!まるで自分がどっかのお姫様みたいな言い分じゃないザマスか!」

その頃ミリーは、ペンダントを浅田山火口に投げ捨てた。
「ああ!な、何してるでありまするか?」
「なんでもないわ。さ、博士君。楽しい思い出一杯作りましょうね。」
ミリーとハカセは、時間の許す限り共に遊び、語り合った。

その夜、UGM基地に出勤した涼子は、レーダーが正常に戻っている事に気がつく。
「コ、コレいつ元に戻ったんですか!?」
「今日の夕方だよ。四時ごろかなあ・・・。」
「・・・その時間は、博士君とミリーちゃんが浅田山へ行っていた時間だわ・・・。まさか・・・。」

涼子は1人、ミリーの家を訪ねる。何も無かったはずの丘に突如建てられた小さな一軒家である。
「・・・いかにも、怪しげだわ・・・。こうなったら・・・。」
涼子は透視能力を使った。そして、地下へ続く不思議なゲートを発見する。

「どうした!?地球人名青山ミリー。顔をあげろ!どうした!?」
「・・・この我々の地球侵略の計画を、中止する事はできないんでしょうか・・・。」
「何があったのだ!?」
「・・・地球人を、愛してしまったのです・・・。」
ミリーがそう呟いた時、何者かの足音が聞こえる。そこに入ってきたのは、星涼子であった。
「先生、どうしてここへ・・・。」
「ミリーちゃん・・・。私今日、学校であなた達のコト精一杯庇って弁護したの。でも、あなたが浅田山へ行った本当の目的は、
 あの火口に潜む何物かの放射能を消すためだったのね・・・。博士君は、人の目をごまかすために連れて行ったの?。」
「!違います!ヒロシ君が好きだから、一緒に行ったんです。嘘じゃありません!」
「だったら、その気持ちをもっと大事に出来ない!?今のまま、博士君の大事な友達でありつづける事は出来ないの!?」
「・・・もう、間に合いません・・・。」
「そうだ。もう間に合わんぞ・・・。」
「だ、誰!?」
「私はビブロス星のコンピューター、V-200Xだ。今、我等の使い怪獣ゴラが浅田山の火口で卵の殻を破る。
 ゴラの狙いはUGM、ひいては地球だ。地球を崩壊させ、我等ビブロス星人がこの星を乗っ取る事になっているのだ。」
「そ、そんな事させないわ!」
「それよりも、貴様は何者なのだ?この空間には、地球人は入ってこれないはずだ。正体を現せ!」
突如涼子の四方から、鉄製のアームが伸びてくる。四肢を掴まれ、身体をピンと張られた涼子は身動きが取れなくなった。
「先生!」
「し、しまった!」






「キャアアアアアアアアアア!!」
涼子に光線が浴びせられる。すると、涼子の衣服は一瞬にして蒸発してしまう。
涼子の身に付いているのは、ブライトブレスレットだけとなった。
「外見上は全く地球人と同じか・・・・。」
コンピューターV-200Xはスキャナーによって、さらに涼子の身体を調べ上げる。
「皮膚・・・筋肉・・・骨格・・・。内臓や筋肉、肺に生殖器、排泄器官にいたるまで地球人と同じとは・・・。
 ここまで完璧な偽装を出来る者はそうそういないはず・・・。ムゥ、このブレスレットのプラズマパワーは・・・。
 貴様、ウルトラ戦士だな!?」
「せ、先生がウルトラ戦士!?」
「・・・そんな事どうだっていいでしょう!?これを外してちょうだい!」
「貴様がウルトラ戦士ならば、ここで殺しておかねば後々面倒だ。死ぬがいい!」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
凄まじい高熱の光線が涼子の身体に浴びせられる。並みの地球人であれば一瞬にして蒸発する程の高熱である。だが、涼子は耐え忍んだ。
「さすがはウルトラ戦士、なかなかしぶとい。ならば出力倍化だ!」
「ヒィ!グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
幾度となく光線を浴び、絶叫する涼子。さしもの涼子も、耐え切る事が出来なくなってきた。
「ダ、ダメ!このままじゃ、死ぬ・・・!」
「喰らえ!最大出力だ!」
その時ミリーの指先から光線が照射された。それを撃ち放たれたコンピューターはモクモクと煙を吐き始める。
アームは涼子の拘束を解き放つ。グッタリ崩れ落ちる涼子を介抱するミリー。
「貴様、裏切ったなあ!ウルトラ戦士共々片付けてくれる!目覚めよゴラよ!2人を倒すのだあああ!」
コンピューターは2人に光を照射。2人を浅田山へテレポートさせ、爆破霧散していった。

「アウッッ!」
「先生、しっかり!」
「こ・・・ここは・・・。」
「あ、浅田山です・・・。ああッ!ゴラが!」
卵から孵った怪獣ゴラが、2人の面前で咆哮していた。2人の方へ向かってノシノシと歩き始めるゴラ。
「ゴ、ゴラ!やめてぇ!」
「ミリーちゃん、逃げるのよ!」
「先生を置いて逃げられないわ!」
その時、爆音と共に一台のバイクがやって来る。
「涼子先生!青山は僕に任せるんだ!」
「その声は、矢的先生!?」
「青山来い!」
「り、涼子先生!」
矢的はミリーを強引に後ろに乗せると、走り去っていく。すぐそこまで来ていたゴラと対峙し、涼子はブライトブレスレットを構える。
「ユリアンッッッッッ!!」
涼子の身体が銀色の巨人に変わっていく。ゴラの前に立ちはだかったユリアンは、深い朱色のゴラの体にガシっと組み付き、
チョップやキックを叩き込む。だが、宇宙の戦士と言われる怪獣ゴラにその攻撃は通用しなかった。
ゴラの首根っこを掴み投げ飛ばそうと試みるが、その怪力の前に逆に投げ飛ばされてしまう。
ならばとユリアンはサクシウム光線を放った。だが、ゴラの指先から発せられた灼熱の光線により、サクシウム光線は相殺されてしまう。
側転したユリアンは、横方向からサクシウム光線を放つが、それも相殺される。
ユリアンは気合一閃ジャンプ、今度はゴラの背後に回りこむ。バックルビームで攻撃、今度は命中するが、
ゴラにダメージを与える事は出来なかった。

ゴラと、ユリアンの死闘を眺めるミリー。
「ゴ、ゴラ・・・・。」
誕生したばかりで、野生の本能のみでユリアンと対峙するビブロス星の戦士ゴラ、そして全くの他人の星であるにも関わらず、
その星の平和を守るために懸命に闘うユリアンの姿を、ミリーは複雑な表情で見つめていた。

ゴラは光頭部からもビームを発する。すんででかわしたユリアンであったが、皮膚がわずかに蒸発している。
直撃を喰らっていたら、瀕死のダメージを負っていたであろう。光線を放ち続けるゴラ。側転、バック転と華麗にかわすユリアン。
業を煮やしたゴラは、四方八方に無闇やたらに光線を打ち放つ。一筋の閃光が、ミリーの方角に迫り来る。
それに気がついたユリアンは、ミリーの前に立ちはだかる。ゴラの強力な光線を、その身にモロに浴びた。
「ヴェガハアアアアアアアアアア!!!」

「!!ユ、ユリアンッッ!!ど、どうしてユリアンが、私をかばうの・・・?」
「お前が何者であろうと、可愛い教え子である事に変わりは無い・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・と、彼女なら言うだろうな・・・。」
矢的の言葉に、一瞬声を失うミリー。
「・・・・ユリアン・・・・先生・・・・。」






うずくまるユリアンめがけ、ゴラの口からマグマ光線が発せられる。光線の威力に押され、吹き飛ぶユリアンの身体。
ヨロヨロと立ちあがったユリアンめがけ、ゴラが突進。ユリアンに抱きつき、体中から炎を発する。
「ヴェアアアアアアアアアッッッッ!!」
高温に耐え切れず、ゴラを振りほどこうとするユリアン。だがゴラの怪力は、ユリアンの身体をグリグリと締め付ける。
さらにゴラはその腕に炎を集中させ、ユリアンの股を鷲掴みにする。
「ヴェアアッ!フゥア、ングゥゥ!ア、グゥゥアッ!!フゥゥ!ンヴグアアアア!!」
凄まじい高温がユリアンの股に襲いかかる。皮膚のある部分はジュワジュワと蒸発して煙が立ち昇り、ある部分はボロボロに爛れ、
そしてある部分はボトボトと溶けおちる。
ゴラがユリアンの身体を解放すると、ユリアンはバタリと崩れ落ちる。
さらにトドメとして、うつぶせのユリアンの腰を浮かせると、ユリアンの尻に鋭い爪をえぐり込ませる。
「ヴェハアアアアアッッッッッ!!ヌグゥゥワアアア!!・・・ハ・・・ァァ・・・ウグゥ・・・。」
ユリアンの尻肉に突き刺さったゴラの指先から、灼熱の炎がたちこめる。ユリアンの尻がメラメラと燃え上がり、
やがて全身が火だるまと化していった。手足をバタつかせ、なんとか鎮火させたユリアンであったが、
もはや体力を失いかけていた。

「ユ、ユリアン・・・・。ゴラ・・・・。」
「頼む青山、怪獣の弱点を教えてくれ。このままでは、ユリアンが死んでしまう。」
「ゴ、ゴラは・・・。ゴラの皮膚は、あらゆる光線に対応できるようになっています・・・。
 ですが、性質の異なる光線を即座に放てば、もしかしたら・・・。」
「青山・・・・。ありがとう。」
矢的は、倒れ伏したユリアンの方角をキッと見やった。

「(ユリアン、聞け!サクシウム光線とバックルビームの連続発射だ!)」
「(エイティ・・・。わかった、やってみる!)」
ユリアンは力を振り絞って立ち上がると、サクシウムのポーズを取る。
慌てて灼熱光線を放つゴラであったが、ユリアンは光線を発射せずにジャンプ。
ユリアンキックでゴラをのけぞらせる。後方回転で華麗に着地したユリアンは、すぐさまサクシウム光線を撃つ。間髪いれずバックルビーム。
2つの光線に耐え切る事のできなかったゴラは、バッタリと倒れ伏す。無念そうに瞳を閉じ、2度と起き上がることはなくなった。

その光景を見届けたミリーは、懐から出した手紙を矢的に差し出した。
「矢的先生・・・。これを、博士君に・・・。」
「青山・・・。お前は地球人、青山ミリーとして生きていく事は出来ないのか?」
「計画が中止した今、私はビブロス星へ戻る事も、ここにとどまる事も出来ません・・・。さようなら・・・。」
ミリーは何処とも無く去っていく。矢的、そしてユリアンにも、彼女の運命を変えることは出来ない。

『ヒロシ君、とてもつらいのですが、あなたにサヨナラをしなければならなくなりました。ほんの短い時間でしたが、ヒロシ君のおかげで、
 私は楽しいひと時を過ごすことが出来ました。私はヒロシ君の事は、永遠に忘れません。中学という素晴らしい時代を、
 ヒロシ君、思いっきり生きてください。では、さようなら。                  青山ミリー      』
涼子の傍らで手紙を読むハカセ。メガネが涙で曇る。
「・・・いい子だったんだけど、またオランダに帰ることになったの・・・。きっとまたいつか会えるわ。気を落とさずに、今まで以上に
 しっかり生きるのよ・・・。」
「ゥゥゥ・・・ウワァ!!」
涼子の胸に顔をうずめ号泣するハカセ。涼子はハカセの頭を抱き、そして涙をこぼす。
「先生・・・本当にまたミリーと、会えるで・・・ありまするか・・・・?」
遠くで2人を見ていた矢的も、かけられる言葉はなかった。


                                   ― 続く ―

 

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