女ウルトラマン先生 第3話 ◇涙、涙の初恋怪獣◇

 



「はい、ハラダ隊員。これハラダ隊員宛の手紙です。」
涼子は、UGMに届いたハラダ宛の手紙を渡す。準隊員の涼子にとって、雑用は大事な仕事の一つであった。
「おう。サンキュー。何々・・・。な、なんだこりゃ!?」
「どれどれ・・・“UGMのハラダ隊員、あなたの活躍いつも見てますが、あなたのモジャモジャ頭と暑苦しい顔はいつみても不愉快です。
 鬱陶しいのでどこかへ消えてくれませんか”うわ、酷い手紙だなあ。」
「畜生!広報部なんかがあるおかげで、俺達って妙に有名人になっちまうからなぁ。こういうやっかみの手紙がよく来るんだよ。」
実際のところ顔が暑苦しいのはたしかだが、彼なりに頑張っているので気の毒といえば気の毒である。城野隊員も悩みをうちあける。
「私も最近、ヘンな人につきまとわれてる気がするの。パっと後ろを振り返るとコソコソ隠れたりして・・・。やあねえ。ストーカーかしら。」
「まあ、城野隊員みたいなピッチピチのお嬢さんだったら、俺だって後を付いていくかもしれないけどな。」
「やめてよ、気味が悪いわ。」
「ソイツ、きっと城野隊員の事が好きなんだろ。イイ男だったらどうする?」
「そうねえ・・・。でも私は今は仕事に夢中だから、恋人なんていらないわ。もっとも、胸がキューーーンッッッ!とするくらいのいい男の人だったら、
 話は別だけどね。まあ、なかなかそんな男性には会えないでしょうけどね。ところで星隊員、私宛の手紙は無い?」
「は、はい。城野隊員宛の手紙は無いみたいです・・・・。」
涼子は、一通だけ届いていた城野隊員宛の手紙を渡せずにいた。薄汚い字で書かれた、いかにも怪しい封書であった。
UGMのポストに直接投函したのか、表面には一言だけ書いてあった。城野隊員にバレぬよう、こっそりと封書を眺める涼子。
「・・・これは確か、へんって読むのよね。『変文在中』か。こりゃストーカーって奴の仕業に違いないわ。妙な不安感を煽るわけにはいかないから、
 捨てちゃった方がいいわね。」
城野隊員宛てに送られた『恋文在中』と書かれていた封書は、彼女に読まれること無くシュレッダーにかけられていった。

それから数日たったある日の午後、今日も涼子は元気に体育の授業にいそしんでいた。
と、ボーっと突っ立っていた生徒の後頭部にサッカーボールが直撃。ぶっ倒れたのは中野シンイチであった。。
「だ、大丈夫!?シンイチ君じゃないの!?サッカー部の君がどうして・・・。」
とりあえず、シンイチを脇に運んで介抱する涼子。やがてゆっくりとシンイチが目を覚まし、起き上がった。
「イテテテテ・・・。」
「シンイチ君、一体どうしたっていうの?サッカー得意な君が後頭部でヘディングするなんて・・・。」
「涼子先生・・・。俺、もう死にてえよ・・・。」
「な、何物騒なコト言ってんの!?何か悩みがあるなら聞かせてちょうだい。」
「・・・実は俺、恋しちゃったんだよね・・・。それも、叶いそうもない恋なんだ・・・。」
「恋!?そ、そう・・・。で、どんな相手なの?」
「その人はさ、結構年上なんだけど・・・。スタイル良くて美人。そして、勇猛果敢に怪獣に立ち向かっていく姿がメチャ格好良くてさ・・・。」
「えぇ!?ダ、ダメよシンイチ君。あなたの気持ちはわかるけど、私と君とは教師と教え子だし、それに私はその・・・。」
「UGMの城野エミ隊員!あぁ、あなたこそ俺の理想の人だ!!」
「へ!?な、なんだ、城野隊員の事か・・・。」
「どうしてもこの想いこらえきれなくて、何回か彼女の後をつけたりした事もあったんだ・・・。」
「アンタだったの!?と、とにかく、後をつけたりしてたって始まらないでしょ?気持ちはハッキリと伝えなきゃ。」
「伝えたさ。ラブレター書いて、城野隊員宛てにUGMのポストに直接投函したんだ。『恋文在中』って書いてさ・・・。」
「コイブミ!?」
「そう、恋の文さ。好きです。一度でいいから会ってください。桜ヶ岡公園で待ってます。あなたが来てくれるまでずっと待ってます。
 そう書いたんだけど、結局彼女は現われなかった・・・。せんせい?なんか顔色悪いよ?」





ヤバイ状況に顔が引きつる涼子。読まれずに捨てられたなんて思ってもいないだろう。シンイチはこぼし続ける。
「やっぱり中学一年の坊主なんか、相手にしてくんねえのかなあ・・・。彼女って、物凄く理想が高そうだしなぁ・・・。
 でもせめて、来たくないなら来たくないって連絡欲しかったよ・・・。
 そうすれば俺だってスッパリ諦めがついたのになあ・・・。って先生聞いてんの!?」
「あ、あのねシンイチ君・・・。実はあの手紙・・・・。城野隊員に渡す前に・・・・。私が捨てちゃったの!ゴメンなさいッッ!」
「えぇぇ!?な、なんて事してくれたんだよ!」
「だ、だってコイブミだなんて言葉知らなかったし、彼女、変な男につきまとわれてるって言ってたし、字も汚かったし・・・って、
 どう考えても悪いのは私だよね・・・。」
「・・・もういいよ・・・。どうせ俺にとっちゃあの人は高嶺の華だったのさ・・・。ああ、俺もう死んじまいたいよ!ヴアーーーーーー!!!」
「ダ、ダメ!気を確かに!落ち着いて!どうどう。」
「畜生!この怒り、何処にぶつけりゃいいんだッッッ!」
「わ、わかったわ。先生が悪いのよ。だから、先生を殴りなさい。」
「へ!?」
「ムシャクシャしてるんでしょ?だったら先生殴っていいわ。ただし、顔じゃなくてお腹にしてね。」
すっと立ち上がり、目を閉じてグっと腹に力を込める涼子。シンイチはギュっと拳を握り締める。
「・・・チクショウ!女なんて大ッッッッキライだ!!」
シンイチの拳は、涼子の下腹部、というか恥丘めがけてぶちこまれた。
「どっひゃああッッッ!!・・・な、なんてトコ殴んの・・・・。」
意表をつかれた涼子はバッタリと倒れこんでしまう。シンイチは涼子に目もくれず走り去っていった。
「り、涼子先生!どうしたんです!?」
うずくまる涼子のもとへ駆け寄る矢的。
「どこが痛いんです!?さすってあげましょうか!?」
「結構ですっ!あいたたたた・・・。」

落ち着いた涼子は、猛に顛末を話した。
「・・・と、いうワケなんです・・・。悪いのは私だから、しょうがないんですけどね、イタタタ・・・。」
「捨てたなんて言わずに、その日は都合が悪いみたいだったとか、上手い事ごまかせば良かったのに・・・。涼子先生はバカ正直だなぁ・・・。」
「生徒にウソつけるわけないでしょう!?」
「ま、そういう所が涼子先生のイイ所なんでしょうけど・・・。それよりシンイチの奴、大丈夫かなあ・・・。」
「大丈夫って?」
「あの年代の子は、何考えてるかわからないですからね。まあ中野の事だから、自殺するような繊細な神経は持ち合わせていないでしょうけど、
 ヤケを起こして暴れ出したり、ムチャしたりしたら手がつけられないですからね・・・。」
「どどどど、どうしましょう!私シンイチ君を捜してきます!」
「僕も手伝いましょう。」

夕暮れの土手で寝そべるシンイチ。オレンジ色の空に、麗しの城野隊員の笑顔が浮かび上がる。
「じ、城野隊員・・・。」
「うふふふ・・・。シンイチくん、私ガキンチョって嫌いなの・・・。これ以上私につきまとわないでね。バーイ!」
「あぁ!城野隊員!」
被害妄想の激しいシンイチ。その幻に対して強い怒りを覚えてしまう。
「チ、チクショウ!チックショウ!チィックショオオオオオッッッッッ!!」
その時シンイチの身体に、空から不思議な力が降り注いだ。そして、シンイチの執念、怨念、そして歪んだ性欲等のマイナスエネルギーが寄り集まり、
みるみると実体化していく。それはやがて、巨大生物の形になっていく。怪獣ホーが出現した。
「中野ッ!」
「シンイチ君!」
涼子と矢的が駆けつけたその時、シンイチは意識を失ってぶっ倒れていた。





その名の通り、ホーッ、ホーッと鳴きながら進軍する怪獣ホー。不安定な13歳の少年の心そのままに、街を破壊してまわる。
「・・・じ・・・城野隊員・・・城野隊員・・・。」
「シンイチ君!目を覚まして!」
涼子の膝の上に寝かされたシンイチは、うわごとのように城野隊員の名を呼ぶ。
「・・・まさか、中野の心があの怪獣を生みだしたんじゃないだろうか・・・。」
「う・・・うーん・・・・。」
「良かった!目を覚ましたのね!」
「り、涼子先生・・・・。」
「中野、来るんだ!」
矢的はシンイチの手を引き駆け出した。涼子もその後を追う。矢的は、シンイチに怪獣ホーの姿を見せつける。
「中野、あれを見ろ。お前の心があの怪獣を生み出したんだ。あの怪獣は、お前の心そのものなんだ。」
「あれが、俺の心・・・。」
「シンイチ君、私はあなたの心があんな醜い怪獣だなんて信じてないわ。シンイチ君、怨念を捨て去って。
 あの怪獣は自分の心なんかじゃないって言ってちょうだい。そうすれば、あの怪獣は大人しく消え去るわ。」
「俺の心は、怪獣・・・・?」
「愛した人には愛されたい。そう思うのは当然だ。けど、相手は血の通った人間なんだ。お前の思い通りにならない事だってある。
 その度に心を狂わせていたら、この世の中は怪獣だらけになっちゃうんだぞ?中野、否定するんだ。あの怪獣は、お前の心じゃないだろ?」
「あの怪獣は・・・。俺の心だ!暴れろ!もっと暴れるんだあああ!」
「ダ、ダメなの!?」
怪獣の近くへ駆けて行くシンイチ。追う、涼子と矢的。そしてホーを撃退すべく、UGMのシルバーガルとスカイハイヤーが駆けつけた。
「暴れろ!暴れろぉぉぉッッッッ!」
UGMの攻撃などまるで寄せ付けず、暴れ狂うホー。城野隊員の駆るスカイハイヤーを叩き落した。
「きゃああああああああああああ!!」
不時着するスカイハイヤー。ホーは、城野隊員の近くへ歩み寄ろうとする。
「中野やめろ!城野隊員を殺す気なのか!?そんな事でお前の心は晴れるのか!?違うだろ、中野!」
「じ、城野隊員・・・・」
「中野、俺の顔を見るんだ。イイ顔してるだろう。俺は女の子にフラれてフラれて、こんなイイ顔になったんだ。
 長い人生、一回や二回フラれたくらいなんだってんだ。お前はまだ若いんだから、これからいい出会いがいっぱいあるんだぞ。
 それに、お前はまだ城野隊員に気持ちを伝えてさえいないじゃないか。男だったらちゃんと告白しろ。
 それでダメだったら、スッパリと忘れてしまうんだ。俺みたいにイイ顔になってみろ!」
「うう・・・。き、消えろ!怪獣、お前なんか俺の心じゃない!消えろおーーーーーッッッッ!!」
シンイチは叫んだ。だが時すでに遅く、怪獣ホーはシンイチの心を離れて憎しみに燃える巨大な悪魔になっていた。
スカイハイヤーの中の城野隊員は気を失っている。このままでは、城野隊員はホーによって殺されてしまう。
「城野隊員が危ない!」
涼子はホーの元へ駆け寄る。
「涼子先生!」
「中野、お前は逃げるんだ。涼子先生と、城野隊員の事は俺に任せろ!」
ホーは、今まさにスカイハイヤーを城野隊員もろとも踏み潰そうとしている。その時、涼子は右手を高々と掲げる。
眩い光が涼子を包み込む。
「ユリアンッッッッ!!」
巨大化した勢いで、ホーを吹き飛ばすユリアン。キック、チョップでホーを後退させ、スカイハイヤーから遠ざける。
飛びげりでホーを吹っ飛ばすと、サクシウム光線の体勢に入る。ユリアンの腕から放たれる赤い閃光。
だが、強敵ホーにはサクシウム光線が通用しなかった。思わずたじろぐユリアン。ホーの口から放たれた赤い光線が、ユリアンに命中。
ガックリと膝をつくユリアン。接近したホーはユリアンを蹴り上げ吹っ飛ばす。仰向けに倒れたユリアンにのしかかると、ボタボタと涙をこぼす。
その涙は硫酸になっており、ユリアンの肌をジリジリと溶かしていった。苦しみもがくユリアン。そしてホーは、ユリアンの両乳房に硫酸を滴らせていく。
「ヴェアアアアア!!フゥ、ヌグウゥゥアアアア!!ヴェアア、ウア、フシュゥグゥアアアアアアア!!」
必死でホーを払いのけたユリアン。部分的に溶かされた彼女の乳首からは、乳房に充満されているプラズマエネルギーが漏れてしまっている。

胸を覆い、エネルギー流出を防ごうとするが、背後からホーに噛みつかれると激痛のあまりエネルギーがブシュワっと噴出した。
さらにホーはユリアンを立たせ、尻を蹴り上げる。悲鳴をあげるたびに、液状のプラズマエネルギーがジュブジュブと流れ落ちていく。
さらに至近距離から怪光線を背中にお見舞いされると、ユリアンは液を撒き散らしつつ崩れ落ちていく。
大の字に倒れたユリアンの両足を掴んだホーは、開かれたユリアンの股間に顔を近づけ、直接涙を落としていった。
「ヴェアアアアアア!!ウグ、フゥワアアアアア!!ムグゥゥア!ヴガハアアアアアアアアアア!!」
丸出しにされた敏感な箇所への硫酸攻撃は凄まじい痛みをもたらした。ユリアンの恥丘が煙をあげながら溶け始めていく。エネルギーの流出も一向に止まらない。
「ヴェアアアア!ハァ、ングゥアアア!ヴェアア!ヴェフアアア!ヴグヌワアアアアアアアアアア!!・・・ア・・・ハァァ・・・・・。」
ユリアンの瞳の光はプッツリと消えた。エネルギーを失ったユリアンに、立ち上がる力は残っていない。動けなくなったユリアンを放置し、
ホーは再び侵攻を始める。標的は、不時着したスカイハイヤーだ。





ホーがみるみるスカイハイヤーに近づいてきた。そこへ、矢的が駆けつけた。コックピットに飛び乗るや、エンジンを再点火させる。
急発進するスカイハイヤー。城野隊員とシートの間に強引に身体を潜りこませ、操縦桿を握る矢的。
ホーの周囲を旋回し、さらにポケットから取り出したスティックを、倒れたまま動かないユリアンに向ける。
スティックから伸びた一筋の光がユリアンのビームランプに照射される。すると、ユリアンの瞳が再び輝き始めた。
「(・・・エネルギーが・・・。回復してる・・・?)」
「(立てユリアン。バックルに力を込めるんだ。そこから放たれるバックルビームならば、奴を倒すことが出来るはずだ。)」
エイティの声に従い、ユリアンはバックルにパワーを集中させる。白い光がバックルに集束され、やがてそれはホーに放たれる。
光の散弾を食らったホーはガクリと崩れ落ちる。
「や、やったあ!ユリアンが勝ったあ!いいぞ、ユリアン!」
狂喜乱舞するシンイチ。ユリアンは一度彼の方を見やった後、天を向いて飛び去った。シンイチは笑顔でユリアンに手を振った。

「・・・よくやったな、ユリアン・・・。おっと、彼女が目を覚ます前に・・・。」
スカイハイヤーを着陸させ、立ち去ろうとする矢的。その時、城野隊員は目を覚ます。
「あ、あなたは・・・。」
「ちょっとお借りしてました。それじゃ失礼!」
歯をキラリと輝かせて微笑む矢的。城野隊員の胸がキューーーンッッッ!となった。

翌朝、登校する涼子の背後からシンイチが挨拶してきた。
「先生、おはよう!」
「あら、シンイチ君おはよう。どうしたの?なんだかゴキゲンじゃないの。」
「実はさ、俺さっきUGMに寄って城野隊員に告白してきたんだ。」
「そうなの!?朝っぱらからよくもまあ・・・。」
「そしたら、見事にフラれちまったよ。なんか、他に好きな人がいるんだってさ。」
「そ、そうなんだ・・・。でも君、フラれたにしては随分と元気がいいわね・・・。」
「俺、次のターゲットが決まったからさ。勇猛果敢に怪獣に立ち向かう姿がメチャ格好イイ・・・。」
「ま、まさか・・・。」
「ユリアン!あぁ、あなたこそ俺の理想の人だあああ!麗しの君よ、そなたは何処にいるのかッッッッ!?」
叫びながら、突っ走っていくシンイチ。複雑な表情でそれを眺める涼子に、矢的が話し掛けてきた。
「涼子先生、おはようございます!いやあ、あいつもイイ顔になりましたね。」
「あっ、矢的先生、おはようございます。先生、昨日はお世話になりっぱなしでしたね。本当、ありがとうございました。」
「いやぁ、そんな・・・。正直なところ、僕もアイツに偉そうな事は言えないんですよ。想っている人に告白も出来ず、 
 影ながら見守る事しか出来ないんですから・・・。」
「へえ・・・。矢的先生にもそういう人がいらっしゃったんですか・・・。」
「ま、今のところ僕はそれで満足なんですがね。」

“・・・・今回は、自分の無力さを通感しました・・・。色恋沙汰って、経険が少ないせいか苦手なのよねえ・・・。
 私もここ最近、誰かを愛してもいないし、誰からも愛されてないしなあ・・・。ま、教師とUGM隊員とウルトラ戦士の三足のワラジを吐いてる今じゃ、
 そんな余裕ないんだけどね。

 P.S. エネルギーまで送ってくれたでしょう?ホント、お節介なんだから。まあ、ちょっとだけ、助かったからいいけどね・・・。

手紙を読み、溜息をつく矢的
「愛されてる事には全然気がついてないみたいだなぁ・・・。鈍いというかなんというか・・・」


                                   ― 続く ―

※当作品に、ポクモ様より挿絵を頂戴いたしました。こちらをクリックして、是非ご鑑賞ください。

 

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